SSブログ

「銘仙図鑑」の年代・産地推定について [銘仙図鑑]

2012年6月23日(土)  「銘仙図鑑」の年代・産地推定について

数日前、銘仙について研究をされている神戸女子大学被服平面構成研究室の方から、現在、私がブログに(ごくたまに)掲載している「銘仙図鑑」の中の産地と年代について「どのように推定されたのでしょうか」という質問がありました。

コメント欄では、十分なことが書けないので、こちらに改めてお返事します。

「銘仙図鑑」に 「※ 産地と年代は、私の推定なので当てになりません。?は『…かな?』、??は『…かもしれない』くらいのニュアンスです」と注記してあるように、銘仙の産地&年代推定はきわめて困難です。

銘仙があまりにも多種多様、かつ生産量が膨大であり、その一方で年代・産地が明確な製品が保存されていることが少なく、推定の根拠となる基準作例が乏しいからです。

私の産地・年代推定は、実際に銘仙の生産に携わった方や、銘仙コレクターの方に教えていただいたことに加えて、若干の技術史的な知識に基づいています。

ただし、上に記したように確度には自信がなく、あくまでも「かな?」「かもしれない??」というレベルの確度の低い推定です。

若干の技術史的な知識というのは、たとえば、次のようなものです。

・ 金糸・銀糸を織り込むのは昭和7~8年(1932~33)に流行した。
・ 半併用の技法は、昭和9年(1934)に足利で開発された。

これらについては、制作年代の上限を示すだけで、決定的なものではありません。

産地推定については、ひとつ厄介な問題があります。それは、産地間での意匠や技術の移動です。移動と言えば聞こえはいいですが、はっきり言えば「盗用」です。
苛烈な産地間の競争の中で、意匠や技術の模倣・盗用は当たり前のことだったようです。

足利で開発された半併用の技術もたちまち他の産地が模倣しますので、足利産の決め手にはなりません(やはり、「本家」の足利で多く用いられたようですが)。

意匠も、捺染用の型枠が産地間で売買されることもあったそうですし、あるデザインが売れ筋になれば、熟練された職人の手で反物からそっくりに型枠を起こすことは難しくないそうです。
実際、足利と秩父でほぼ同じ意匠が使われていた例を知っています。
091018-6.jpg
↑ 銀鼠と濃紺の太縞に巨大な萩の柄の足利銘仙。
ほぼ同じ柄が秩父でも織られている。
どちらがどちらを模倣したかは不明。

産地については、意匠の特色(傾向)は、ある程度、言えても、年代推定よりもさらに難しく、確度は下がると思っています。

以下、私が認識している三大産地の特色(傾向)を列記します。

【秩父】 
はっきりした「玉虫」光沢は秩父の得意技。
そのため、緯糸に暗い色を入れるので、全体的にうす暗いトーンのものが多い。
経糸捺染&解し織りの大きな植物柄が得意。
逆に併用絣による精密な幾何学柄は少ない。
着尺の生産は、ほぼ戦前に限られる。

【伊勢崎】
併用絣による精密な幾何学柄は伊勢崎の得意技。
全体的に意匠・技術のレベルが高い(そうでない物もたくさんあるが)。
戦前は三大産地(伊勢崎・秩父。足利)の生産量が拮抗しているが、戦後はほぼ伊勢崎の独占状態になるので、戦後的な意匠は伊勢崎産である可能性が高い。

【足利】
半併用の技法は、発祥地だけに得意技。
技術レベルを示す細かい柄(絵画風、幾何学柄)が比較的多いが、精度は伊勢崎にやや劣る。
生産の中心は、戦前期の後半(昭和7~12年=1932~37)。

ということで、いたって頼りないものです。

こうした確度の低い情報をネットに載せることについては、私自身、迷いもありました。

ただ、銘仙を日本近代の服飾文化の豊かさを示す美術・学術資料として扱うならば、いつ、どこで作られたかということは基本情報であり、年代と産地の情報欄を空白のままにしておくことは許されないと思ったからです。

今後、為すべきことは、制作年代、産地が確定できる作例を1つでも多く集めること、当時の写真資料(残念ながらモノクロ画像ですが)などから意匠データを集めること、各産地に保存されている見本帳やデザイン帳の調査を進めること、そして、それらを誰もが利用できるようなデータベース化することだと思います。

そうした作業・研究は、私のような一個人が、しかも本業の片手間に行うのは不可能なことで、やはり大学の研究室のような機関で進めて欲しいと思います。

それについて、私にお手伝いできることがあるなら、よろこんでいたします。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。